通算189勝、神宮最多92勝を目指して

週ベオンラインより
ニュースレター読者のみなさん、こんにちは。一昨日の悔しさを乗り越え、昨日は久々の快勝となりました。いや、決して「快勝」ではなく、薄氷の上をスパイク履いてズカズカ歩くような「辛勝」でしたが、勝てばいいのだ、勝てば。
茂木栄五郎選手の3ランにはしびれました。「ここで一発出れば逆転だ」と、誰もが考えている中で、その思いを現実にしてくれました。その瞬間、自分でも聞いたことのない「グギョ」という変な声が出て、持っていたビールがこぼれそうになるのも仕方のないことでした。
「代打・宮本丈」も見事でした。本人のヒーローインタビューにもありましたが、打席に入る前と打席中とで求められる役割が代わる中で、見事な殊勲打を放ちました。あの瞬間も「グギョギョ」と聞いたことのない音が口から漏れ、五十肩にもかかわらず、気がつけば何度も何度も万歳をしていました。あの瞬間だけ、上がらなかった肩が何度も上がるという人体の神秘を見た思いです。
昨日の試合後、僕はXにこんなポストをしました。

ここに書いたように、昨日の試合前に髙津監督インタビューを行いました。監督には2日にわたって時間をいただきました。近々公開の記事で、ご紹介したいと思います。
激しい雨が降っていたため、取材場所は室内練習場。指示された控室で待機していると、僕たち取材陣の前に宮本選手が現れました。他の選手たちは、ネットの向こう側で各々ウォーミングアップを行っています。けれども、早出練習をしていた彼は、すでにウォーミングアップを終えていたため、みんなから離れて素振りをするために、僕らの近くにやってきたようです。
目の前で見るプロの本気の素振り。「ビュッ」「ビュン」と風を切る鋭い音が聞こえてきます。額には汗が滲み、その表情は鬼気迫るものでした。もちろん練習の邪魔をするつもりなど微塵もなかったけれど、近づくことも、話しかけることもできないほどの凄みを感じさせました。
(頑張れ丈、今日こそ打てるぞ!)
思わず僕は、心の中でつぶやいていました。いや、叫んでいました。もちろん、どんな選手も、人の見えないところ、知らないところで不断の努力をしていることでしょう。けれども、たまたまその姿を目の当たりにしたからこそ、「今日は宮本の出番はあるのかな? ぜひいい場面で出てきてほしい」と願い、それが現実のものとなったので、喜びもひとしおでした。

ヒーローインタビューでの表情は、いつものような穏やかな表情に戻り、目尻の下がった優しい笑顔で受け答えをしていました。試合前の鬼気迫る表情と、お立ち台での穏やかな笑顔。完全なるギャップ萌えの瞬間でした。この一打をきっかけとして、今日からさらに活躍してくれることを期待したいと思います。頑張れ、丈!
通算189勝目を目指して、石川雅規が先発
そして本日は、先日の甲子園球場で今季2勝目、通算188勝目を記録した石川雅規投手が先発します。5月4日の勝利の後、2度にわたって石川投手に話を聞きました。そのやり取りを週ベオンラインの「2025年の石川雅規」連載にまとめ、それが本日公開されました。
前回登板の失敗と反省を踏まえ、次の機会にすぐに失敗を取り戻すベテランの凄みをぜひ感じていただければ幸いです。そして本日、通算189勝目を目指して、今季初となる神宮のマウンドに立ちます。そうです、ようやく神宮球場に石川が帰ってきます。
これまでも何度か述べましたが、石川投手はこれまで神宮球場で91勝をマークしています。これは昭和の大エース・松岡弘さんに並ぶ最多タイ記録です。今日、石川投手が勝利すれば「通算92勝」となって、歴代最多勝に躍り出ます。僕は今年、『神宮球場100年物語』という本を出版しました。神宮外苑再開発に関して、神宮球場にゆかりのある人たちに話を聞いて歩いた記録です。

この本の第四章で「神宮球場で最も勝った男、最も打った男」と題して、「最も勝った男」である松岡弘さんと石川雅規の話をまとめました。以下、その一節を引用します。
24年シーズン終了時点で、石川が神宮球場で積み上げた白星は91。これは昭和の大エース・松岡弘と同数である。
この石川へのインタビューの直前、別件の取材で松岡に会った。本題が終わり、「神宮最多勝」について話題を投げかけると、松岡は白い歯をこぼした。
「石川、まったく何をやっているんだよ。早くオレの記録を抜けよ!」
松岡さんは今もお元気でした。そして、かつての教え子である石川のことを気にかけていました。再び、『神宮球場100年物語』から引用します。
かつて、松岡が二軍ピッチングコーチだった頃、まだ入団したばかりの石川の指導をしたことがある。当時の石川の印象を振り返ってもらった。
「入団したときから人一倍負けず嫌いで、人一倍練習をしていたけど、まさか、石川があんな大投手になるとは思わなかったよ。オレの記録なんかさっさと抜いて、早く単独1位になってほしい。今度彼に会ったら、そう伝えておいてよ」
この言葉を石川投手に伝えると、その表情は引き締まり、(僕にとっては)意外な言葉を口にしました。