今、高橋奎二に伝えたいこと

気がつけばプロ11年目、29歳に
昨日、今日と、悔しい試合が続いています。リードしていても、なかなか勝ち切れないですね……。さて、シルバーウィーク中の今日は高橋奎二投手について書きたいと思います。
プロ11年目。1997年5月14日生まれだから、今年29歳になりました。昨年までの通算成績は33勝33敗でまったくのイーブン。そして今年は、今日の試合を受けて5勝6敗。トータルでは38勝39敗となっています。そうか、まだ40勝にも達していないのか……。ついついそう感じてしまいます。なぜなら、高橋奎二に対する期待値はとても大きいからです。
誰もが夢を見るポテンシャルと、消えない「もどかしさ」
高橋奎二という投手を語るとき、僕はどうしても「タラレバ」を口にしたくなってしまいます。
「彼が本気を出せば、球界最強の左腕になれるはずだ」
「彼が覚醒すれば、二桁勝利どころか沢村賞だって狙えるはずだ」
スワローズファンなら誰しも、一度や二度どころか、毎シーズンのようにそう思ったことがあるはずです。龍谷大平安高校時代、甲子園を沸かせたダイナミックなフォーム。プロ入り後、怪我やフォームの模索を乗り越え、2021年の日本シリーズで圧巻の完封勝利を挙げたあの夜。そして2023年、WBC日本代表メンバーとして最高の栄光を手にしたあの姿。
彼には、誰もが羨む圧倒的な素質があります。マウンド上で躍動するときの彼は、まさに「神に選ばれた投手」のように見えます。しかし、その輝かしい一瞬を知っているからこそ、僕たちはこの数年間、ずっともどかしい思いを抱え続けてきました。なぜ、これが継続しないのか。なぜ、次の登板ではあっさりと四球を連発し、自滅してしまうのか。
「今年こそは」と期待しては裏切られ、「もう期待するのはやめよう」と諦めかけると、忘れた頃に完璧なピッチングを見せてファンを惹きつける。高橋奎二という投手は、僕たちスワローズファンの心を翻弄し、手のひらで弄び続けてきた、実に罪な男なのです。
天国と地獄——期待値が高いからこその「失望」
彼がハマったときのピッチングは、本当に手がつけられません。ストレートは球速以上のキレでバッターのバットは空を切り、スライダーやチェンジアップが面白いように決まる。相手打線が手も足も出ず、ベンチでただ溜息をつくしかないような、完璧な「無双状態」を作り出します。だけど、悪いときのピッチングはどうでしょうか。
立ち上がりからストライクが入らず、カウントを悪くしては甘く入った球を痛打される。テンポは悪くなり、守備陣のリズムまで狂わせてしまう。マウンド上で困惑したような表情を浮かべ、ズルズルと点を失っていく姿は、正直に言って「見ていられない」と感じることすらありました。ハッキリ言えばイライラします。
期待値が低ければ、打ち込まれても「まあ、今日は仕方がなかったね。今度は頑張ってね」で済むかもしれない。だけど、彼に対する僕たちの期待値は、常にチームのエース級、球界を代表するサウスポーとしてのもの。だからこそ、情けないピッチングを見せられたときのファンの失望感や脱力感は、他のどの投手よりも大きくなってしまうのです。
(またかよ……。勘弁してくれよ……)
今シーズンも、何度その言葉を飲み込んだかわかりません。先発ローテーションの一角として期待されながら、ローテから外れたり、試合序盤で大量失点をしたり、「彼の才能は、このまま開花しきれずに終わってしまうのだろうか」という不安が、ファンの間にも重く立ち込めていました。
変化の兆し——先日の広島戦、そして今日の巨人戦
けれど、野球の神様は捨てたものではありません。シーズンも終盤に差し掛かったこの時期に来て、高橋奎二の姿に「小さな変化の兆し」が見え始めています。みなさんもご覧になったでしょう。先日の広島東洋カープ戦、そして今日の読売ジャイアンツ戦を。
これまでの彼なら、ランナーを出したところで力み、自滅していたかもしれない場面でも、マウンド上の高橋は粘り強く投げ続けていました。相手打線に嫌なプレッシャーをかけられながらも、1球1球に強い意思を込め、腕を振り抜く。ストレートで押し込み、勝負どころでキレのある変化球を低めに集める。
単に「調子が良かった」という言葉だけでは片づけられない、どこか腹を括ったような、芯のあるピッチング。そこには、これまで私たちが目にしてきた「ムラのある高橋奎二」ではなく、チームの勝利を一人で背負って立つような「エースの風格」が少しだけにじみ出ていました。なぜ、彼は変わったのか。何が彼の中で弾け、覚醒への引き金となったのでしょうか。
あの涙の意味——大投手・石川雅規が遺したもの
その答えの手がかりは、あの広島戦のヒーローインタビューにあると思います。お立ち台に上がった高橋奎二投手。普段の彼なら、少し照れくさそうに、どこか少年っぽさを残した笑顔で「えーっと、野手のみなさんが打ってくれたので……」と謙虚に、時に淡々と語るのがお決まりの光景でした。しかし、あの日の彼は違いました。
インタビュアーから、今季限りでの引退を表明した大ベテラン・石川雅規投手について振られた瞬間、彼の表情が一変しました。それまでは、「サンキューベリーマッチ」とおチャラけていた彼の表情が一瞬にして固くなりました。そして、言葉を詰まらせ、溢れ出そうになる涙をこらえつつ、涙ぐみながら先輩への思いを語る姿がありました。実にいいインタビューだったなぁ。