原樹理について

戦力外通告から2週間、お別れの言葉は言わない
はせがわ 2025.10.15
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ペナントレースが終わり、こんなにものんびりとした、そして刺激のない時間は久々であると同時に、やっぱり物足りなさを感じています。先日、池山隆寛新監督以下、来年度の組閣もほぼ発表となり、同時に来年度の陣容も、少しずつ明らかになっています。

9月29日、9選手に対して戦力外通告がなされました。その中に原樹理選手の名前がありました。正直言えば、覚悟はしていました。背番号が「16」から「52」に変わり、背水の陣で迎えたプロ10年目、二軍でも思うような成績を残せませんでした。

ファーム中継を見ていて、「これが、あの原樹理なのか……」と思うことはしばしばありました。でも、年齢はまだ32歳。「まだまだ投げられるはずだ」という思いと、「このまま終わってしまうのか」という思いと、複雑な心境で今シーズンの彼を見ていました。

スポーツ紙には、彼のコメントが掲載されていました。

「だいぶ怪我をしまして、本当に貢献できずに申し訳ないなというところですかね。大変な時期が多かったですね。16連敗とか。そういう時期ばかりで、全然貢献できなくて。せっかく取っていただいたのに、なかなか(貢献)できなかったというところが球団、ファン含めて申し訳ないというところが一番ですね」

このコメントを読んで、胸が苦しくなりました。謝らなくていいよ。もっと胸を張ってくれよ。そんな思いでいっぱいだったからです。彼は口にしていないけれど、2019年6月2日、「16連敗」を止めたのは、先発した原樹理投手でした。

また、多くの人の記憶に今でもハッキリと焼きついている試合があります。2021年10月24日、投打にわたって大活躍をしたのが原樹理選手でした。この試合に勝利したスワローズはマジック「2」となり、セ・リーグ制覇にぐっと近づくことができました。

3回裏、二死満塁から原樹理投手の3点タイムリー二塁打。興奮したよなぁ。彼の放った打球が三塁線を抜けた瞬間、僕は信じられないくらいジャンプしていました。「オレにもまだこれだけの跳躍力があるんだな」と感じたことを覚えています。

この試合、何度見ても、興奮するなぁ。二塁ベース上での原樹理は本当にカッコよかった。

さて、初めて原樹理選手にインタビューしたのは、2018年秋季キャンプ、松山でのことでした。

この日のインタビューは忘れられないものになりました。僕の記事を読んでくれていたので、和やかなスタートとなりました。でも、話を聞いていくうちに、質問をしているこちらが心配になるほど、彼があまりにも繊細すぎたからです。

ひと言でいえば、彼の発言は「不安」で彩られていたのです。取材冒頭から、消え入りそうな声でのやり取りが始まりました。以下、拙著『再起』から引用します。

――2018(平成30)年を振り返る際のキーパーソンとして、ぜひ原樹理投手にご登場いただきたく、お時間をいただきました。

原 まさか、僕を取材していただけるとは思わなかったです。いつも、長谷川さんの記事を読んでいたので、一度、お会いしたかったです。去年は毎回、トモさん(伊藤智仁・現楽天投手コーチ)のコラムがあったんで、「次はいつトモさんの言葉を聞かせてくれるんだろう?」って楽しみにしていました。シーズン中、僕がダメだったときにも記事がありましたよね。それを読んで、「泣くな、オレ。よし、また頑張ろう」って……

あるいは、こんな言葉もありました。原投手が先発する際に、「ずっとアイツ負けてるから、今日も負けるだろうな」と、スワローズファンが思っているのではないか、そう考えていたこともあるそうです。もう一度言います、「スワローズファンが」です。

――カープとの3連戦。7月31日はブキャナン投手、翌8月1日は小川投手が先発して敗れています。そして、3戦目に登板したのが原投手でした。

原 はい。「きっと、多くの人が負けを計算してるだろうな」って思いました。広島サイドも「勝てるだろう」って思ってるだろうし、ヤクルトファンの人たちも「ずっとアイツ負けてるから、今日も負けるだろうな」という思いを持ってる人もいるだろうなと思いました。だから、ここでいとも簡単にKOされたら、本当に悔しい。それまで、散々負け越してはきたけど、投げても勝てない日々が続きながらも、伊藤コーチからはずっと「そういうものに耐えながら精進していくしかない」と言われていたんです。

思わず僕は「スワローズファンが、そんなことを思うわけないですよ」と言ってしまいましたが、一方では「そこまで追い詰められているのか……」と胸が苦しくなりました。この日のロングインタビューは、こんな調子がずっと続きました。

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