山田哲人をなめんなよ

(あぁ、やっぱり敬遠しないのか……)
「代打・山田哲人」が告げられた瞬間、改めてスコアボードを確認する。続く打者は田中陽翔、そして西村瑠伊斗。いずれも左バッターだ。相手は今季45試合目の登板となるサウスポーの橋本侑樹。一塁は空いている。やはりここは山田を申告敬遠し、「左対左」——若い田中、西村と勝負するのだろう。
はじめは、そう考えた。けれども、次の瞬間、まったく別の考えが頭をよぎった。
(いや、今の山田なら、相手バッテリーは勝負を仕掛けてくるかもしれない。だとすれば、投手交代か? それとも、橋本がそのまま勝負するのか?)
中日はすでに6人がマウンドに上がっている。ここで松山晋也を投入することはないだろう。中日ベンチを見るも、投手交代のそぶりは見られない。同時に、申告敬遠の様子もない。やはり、井上一樹監督は「山田と勝負」を選択したのだ。
(なめられたもんだな……)
それは、プロ野球選手としての「格」を無視した采配だと思った。過去の実績と現在の状況を比較した上で、現在を選択したのだ。もちろん、間違った選択だとは思わない。けれども、「格」を侮ってはいけない。
(山田は今、どんな思いで打席に入っているのだろう……)
闘志を前面に打ち出すような選手ではない。決して表情には出さずに、内なる炎を静かに燃やし続けているのだろう。このとき、僕の頭の中には二つの結末が浮かんでいた。
一つは「力のないスイングによる空振り三振」、そしてもう一つは「レフトに飛び込む美しいホームラン」。両極端の内容だ。ひょっとしたら「走者を進めることのできないサードゴロ」や「バットの先にひっかけて三遊間を破るレフト前ヒット」かもしれない。けれども、この瞬間の僕の脳裏には「三振か、ホームランか」という両極端の結果がイメージされていた。
球場中を包む「山田哲人コール」の中、初球はボールとなった。カウントによっては敬遠もあるかもしれない。だからこそ、次のボールを打ってほしかった。なめられっぱなしの山田哲人を見たくなかったからだ。
そして投じられた2球目。山田のバットが一閃する——。